てんかん焦点・ネットワーク可視化技術による最先端てんかん外科治療

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脳が部分的に異常興奮して発作をおこす焦点性てんかんにおいて、異常興奮部位(てんかん焦点)やその異常興奮活動を橋渡しするてんかんネットワークを可視化するために、当科ではデジタル脳波データに対するコンピュータ数理解析を用いた、世界最先端の評価法の開発に取り組んでいます。本技術を用いて、当科が有する日本有数の高密度(256チャンネル)脳波や、手術中の脳波を解析することで、より安全かつ正確なてんかん外科治療の実践を目指しています。

内側側頭葉てんかん

内側側頭葉てんかんでは、上腹部感覚の前兆を伴い、意識がぼーっとして口をもぐもぐするなどの発作が典型的ですが、発作の内容が多様であり、発作型や画像検査、通常の脳波検査からはてんかん焦点が左右どこにあるのか分からないことがあります。下記に示す患者さんの場合、発作型や術前の頭部MRI画像からはてんかん焦点がはっきりしませんでしたが、高密度脳波にてんかん焦点可視化技術を適用することで、左側の内側側頭葉にてんかん焦点があることがわかりました。

術前MRI画像

術前MRI画像

高密度脳波を用いたてんかん焦点可視化技術

高密度脳波を用いたてんかん焦点可視化技術

手術では、前頭葉と側頭葉の間を丁寧に剥離して、内側側頭葉の一部である海馬に到達します。海馬の表面で脳波を観察すると、棘波というてんかん原性を強く示唆する特有の脳波を認めます。海馬多切することで棘波の消失を観察して、術中にてんかんが改善したことを確認しています。術後合併症は無く、てんかん発作は消失しました。

海馬多切前は棘波を認める

海馬多切前は棘波を認める

海馬多切後に棘波は消失

海馬多切後に棘波は消失

外側側頭葉てんかん

外側側頭葉てんかんは、異常興奮活動が内側側頭葉を巻き込むこともあり、内側側頭葉てんかんと区別がつかない場合もあります。下記に示す患者さんの場合、術前の頭部MRI画像において左側頭葉に嚢胞状の構造(脳瘤といいます)を認めましたが、てんかん焦点がどこにあるのかは分かりませんでした。これについても、てんかん焦点・ネットワーク可視化技術により、外側の側頭葉にてんかん焦点があり、さらに同側の運動領域とてんかんネットワークによって繋がっていることがわかりました。

術前MRI画像

術前MRI画像
矢印が脳瘤

てんかん焦点・ネットワーク可視化技術

てんかん焦点・ネットワーク可視化技術

手術では脳瘤を切除し、その後にてんかん焦点である外側側頭葉の一部を切除します。切除前に外側側頭葉表面で脳波を観察すると棘波を多く認めました。焦点切除後に棘波の消失を観察し、術中にてんかんが改善したことを確認しています。術後合併症は無く、てんかん発作は消失しました。

焦点切除前は棘波を認める

焦点切除前は棘波を認める

焦点切除後に棘波は消失

焦点切除後に棘波は消失

限局性皮質異形成

限局性皮質異形成は局所的な神経細胞発生異常であり、抗てんかん薬を用いても発作が消失しにくく難治性であるために、てんかん焦点切除術が行われます。てんかん焦点が手足の運動領域などの重要領域の近傍であったり巻き込まれたりしている場合は、頭蓋内電極を留置して、詳細な脳波解析や脳機能マッピングなどを併用します。下記に示す患者さんの場合、術前の頭部MRI画像において左側前頭葉に限局性皮質異形成を疑う所見がありますが、右手の運動領域が巻き込まれており、てんかん焦点の正確な拡がりは不明瞭でした。頭蓋内電極埋め込み術を行い、てんかん焦点可視化技術を用いた頭蓋内脳波解析を行い、切除すべきてんかん焦点がわかりました。

術前MRI画像

術前MRI画像
矢印が脳瘤

頭蓋内脳波を用いたてんかん焦点可視化技術

頭蓋内脳波を用いたてんかん焦点可視化技術
赤い部が切除すべきてんかん焦点

脳機能マッピングの結果も踏まえ、てんかんを確実に治し、且つ、極力後遺症を作らないように病変部切除領域を決定します。動脈や静脈、運動領域などの重要構造を全て温存しながら丁寧に切除します。術後に一時的な手の運動麻痺を認めましたが回復し、てんかん発作は消失しています。

赤で囲んだ箇所が切除領域

赤で囲んだ箇所が切除領域

重要構造を温存して切除

重要構造を温存して切除

海綿状血管腫

海綿状血管腫は出血後にてんかんを合併することがあり、血管腫からの再出血予防とてんかん改善を目的として手術を行います。出血した血管腫の周囲には、ヘモジデリンという鉄が沈着し、このヘモジデリンがてんかん発症に関与するため、ヘモジデリン沈着部の摘出により発作が改善するとされています。しかしながら、手術中にヘモジデリン沈着部は見た目だけでは判断が難しく、てんかん焦点を術中に正確に同定できる脳波評価法はこれまでありませんでした。当科では、てんかんを合併した海綿状血管腫における術中の頭蓋内脳波を用いたてんかん焦点可視化技術を駆使し、切除すべきてんかん焦点を術中に安全に確実に評価しています。これにより、極めて低侵襲手術が可能となり、後遺症ゼロを実現しています。

術前MRI画像

術前MRI画像

術後MRI画像

術後MRI画像

術中頭蓋内脳波を用いたてんかん焦点可視化技術

術中頭蓋内脳波を用いた
てんかん焦点可視化技術
赤い部が切除すべきてんかん焦点

てんかん焦点を切除し海綿状血管腫を摘出

てんかん焦点を切除し
海綿状血管腫を摘出

関連書籍

  • Sato Y, Wong, SM, Iimura,et al : Spatiotemporal Changes in regularity of gamma oscillations contribute to focal ictogenesis. Sci Rep. 24;7 : 9362, 2017
  • Sato Y, Ochi A, Mizutani T, et al : Low entropy of interictal gamma oscillations is a biomarker of the seizure onset zone in focal cortical dysplasia type Ⅱ. Epilepsy Behav 96 : 155-159, 2019

担当医

佐藤 洋輔
てんかん手術を得意としております。

  • 水曜日午前がてんかん外科外来となっております。
  • 手術、学会などで不在となることもあります。お電話でご確認の上お越しくださるとありがたいです。

医療連携室:(03)3784-8400

佐藤 洋輔